お役立ち情報
2020.01.16
配偶者居住権の税務上取扱い~評価額算定を中心として~
1. 概要
民法の改正に伴い「配偶者居住権等の評価」を新設しました。
今回は現在(令和元年11月末日)わかっている範囲で「配偶者居住権等の評価」に
ついてお伝えします。
2. 配偶者居住権を取得する場合
配偶者が、相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合において、以下①~③の
いずれかに該当するときは、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利が
発生し、財産価値に相当する価額を相続したものとして扱われる。
- 遺産分割によって配偶者居住権を取得したとき
- 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
- 被相続人と配偶者の間に配偶者居住権を取得させる死因贈与契約があるとき
3. 評価方法
① 建物の時価
相続開始時における自用の場合の相続税評価額
(一部賃貸や共有の場合は、面積按分等により計算)
② 土地の時価
相続開始時における自用の場合の相続税評価額
(一部賃貸や共有の場合は、面積按分等により計算)
③ 具体例
(前提条件)
(ア)相続人、妻(相続開始時85歳)・長男
(イ)建物相続税評価額 500万円(木造・築15年)
(ウ)土地相続税評価額 1,500万円
(エ)長男が土地建物を相続、妻は配偶者居住権を設定し、終身居住の予定
(配偶者居住権評価額計算)
500万-500万× 22年×1.5-15年※1-8.39※2=9.61
22年×1.5-15年=18年
×0.789※4=2,893,809円(居住権相当部分)
建物時価-建物時価× 残存耐用年数※1-配偶者居住権の存続年数※2
残存耐用年数×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利率※3による複利現価率※4
※1 残存耐用年数は、「法定耐用年数×1.5-建築経過年数」
※2 存続年数は①又は②により計算した年数
① 配偶者居住権の存続期間が終身の場合・・・・・配偶者の平均余命年数
(厚生労働省簡易生命表参照)
② ①以外・・・・・遺産分割協議等で定められた存続期間(平均余命が上限)
※3 法定利率は2020年4月から3%
※4 国税庁複利表参照
(建物評価額計算)
500万-2,893,809=2,106,191円(所有権相当部分)
(配偶者居住権に基づく敷地評価額計算)
1,500万-1,500万×0.789=3,165,000円(居住権相当部分)
土地等の時価-土地等の時価×配偶者居住権の存続年数に応じた民法の法定利
率による複利現価率
(敷地評価額計算)
1,500万-3,165,000円=11,835,000円(所有権相当部分)
(相続により取得した財産)
妻 2,893,809円+3,165,000円 = 6,058,809円 (居住権相当部分)
長男 2,160,191円+11,835,000円 =13,941,191円 (所有権相当部分)
4. 小規模宅地等の特例
配偶者居住権に基づく敷地の利用に関する権利は、「土地の上に存する権利」とし
て特例の適用対象となる。
配偶者については、同居親族等の適用要件がないため、無条件で適用対象となる。
(対象面積)
例えば、父母と長男が同居しており、父に相続が発生した場合
母・・・・・配偶者居住権及びその敷地利用権
長男・・・・居住建物及びその敷地
この場合の適用面積は、「価格割合」で按分する。
敷地面積200㎡、敷地利用権500万、居住建物敷地1,500万
敷地利用権対応面積 200㎡× 500万/2,000万=50㎡ (母)
居住建物敷地対応面積 200㎡×1,500万/2,000万=150㎡(長男)
5. 配偶者居住権をめぐるその他の税務
① 第三者への使用若しくは収益
配偶者は、所有者の承諾を得れば、居住建物を使用、収益をさせることができる。
具体的には、不動産所得となる。この場合、社会通念上、事業と称するに至るとはい
えない。
② 相続財産性
配偶者居住権は、その存続期間満了前に、その配偶者が死亡した場合には消滅する。
この権利は配偶者の一身専属権的なものであるため相続財産性はない。(民法896)
③ 贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の贈与が行われた場合、基礎控除
110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる特例である。
配偶者居住権と贈与税の配偶者控除の関係からすれば、配偶者控除の対象でなると
考えられるが現実的ではない。
④ 配偶者居住権の消滅時の課税
以下の事由により配偶者居住権が消滅した場合、贈与税の課税関係が生じる。
(ア)配偶者と所有者との間の合意により消滅した場合
(イ)配偶者居住権の放棄により消滅した場合
(ウ)所有者の意思表示に消滅した場合において対価を支払わなかった場合
→消滅直前の配偶者居住権の価額に相当する利益
(新設相続税法基本通達9-13の2)
⑤ 固定資産税の取扱い
固定資産税は、原則不動産の所有者に課税される。
改正相続法では、配偶者居住権を取得した配偶者は、建物の「通常の必要費」を負
担することとされており、固定資産税などの公租公課はこの「通常の必要費」に含ま
れると考えられる。(改正後民法1034条1項)
したがって、建物の固定資産税をいったん所有者が支払い、配偶者に請求すること
ができる。
他方、敷地の固定資産税については、建物の通常の必要費には含まれないと考えら
れるため、所有者が負担することになると思われる。
⑥ 不動産取得税の取扱い(立川都税事務所確認)
現行の不動産と同じ取扱いになり、非課税になるのではとのことです。
現場レベルではまだ詳しい取扱いが下りてきていないので、取扱いが出たら今後HP
に掲載予定だそうです。